スペイン起業家ビザとは?
観光地としてのイメージが強いスペインですが、実はスタートアップや革新的な事業の拠点としても注目されています。2023年時点で成人の13%以上が何らかの形で起業に関与しており、3年連続で増加傾向にあります。
スペイン起業家ビザ(Entrepreneur Visa)は、革新的なビジネスを立ち上げたい非EU市民に向けた滞在制度です。スペインでの起業・事業運営を通じて、同国の経済に貢献できることを前提としています。
申請条件
1. 革新的なビジネスプランの提出
- スペインにとって新規性・独自性のある事業であること
- 技術革新、商品・サービスの新規性、業務プロセスの革新性などを含む
- 完成度の高いビジネスプランが必要
2. ENISAによる肯定的評価(レポルテ・ファボラブル)
- 国家革新企業ENISAによる「肯定的評価」が申請の必須条件
- 提出するビジネスプランの実現可能性や経済的影響を審査
ENISA(エニサ)とは、スペイン起業家ビザ(Entrepreneur Visa)において非常に重要な役割を担う スペイン政府出資の公的機関 です。正式名称はEmpresa Nacional de Innovación, S.A.(国家革新企業)
3. 経済的資力
- 主申請者:IPREMの100%(月600ユーロ×12ヶ月=年7,200ユーロ)以上の生活資金
- 帯同家族1人につきIPREMの50%を追加
4. 一般的なビザ要件
- 18歳以上であること
- 過去5年間の無犯罪証明書(宣誓書も必要)
- スペインで有効な民間医療保険の加入
- 有効なパスポート(滞在予定+1年以上)
家族の帯同について
スペインの起業家ビザでは、主申請者に加えて家族を帯同させることが認められています。
条件を満たせば、同時にビザを申請・取得でき、家族全員でスペイン移住をスタートすることが可能です。
対象となる家族メンバー
以下の家族が帯同対象になります。
- 配偶者またはパートナー(未婚含む)
法的に認められた結婚相手、または事実婚のパートナー(未婚でも関係を証明できる書類があれば可) - 扶養中の子ども
18歳未満の子ども、または経済的に依存している成人子ども(未婚・同居であることが条件) - 扶養している親・祖父母
主申請者と同居しており、かつ扶養されていることを証明できる場合
追加の収入証明が必要
帯同する家族がいる場合、主申請者は自身の分に加えて、家族1人ごとにIPREMの50%(月額€300)を追加で証明する必要があります。
帯同者数 | 必要な追加収入(月額) | 合計(月額)の例 |
---|---|---|
配偶者1人 | €300 | €600(本人)+€300=€900 |
子ども1人 | €300 | €600+€300=€900 |
配偶者+子1人 | €600 | €600+€600=€1,200 |
IPREM(Indicador Público de Renta de Efectos Múltiples)は、スペインにおける生活基準を示す金額指標です。2024年の月額は €600。
提出すべき書類(家族分)
家族帯同の申請には、以下の書類を準備する必要があります
- 関係証明書
結婚証明書、出生証明書、パートナーシップ登録証など、家族関係を証明できる公的書類 - 扶養証明(成人子・親など)
経済的に依存していること、未婚であること、同居していることを示す証明書類 - 翻訳+認証
外国語で作成された書類はすべてスペイン語に公式翻訳(宣誓翻訳者によるもの)し、アポスティーユまたは領事認証などの合法化が必要です
一部の書類は取得や翻訳・認証に時間がかかるため、できるだけ早めに準備を始めましょう。
必要書類
スペインの起業家ビザを申請するには、決められた書類を正確に準備・提出することが重要です。
申請者本人、ビジネスプランの内容、帯同家族の有無によって求められる書類が異なりますので、以下のリストをもとにチェックしましょう。
必要書類は3つのカテゴリに分かれる
- 一般書類(すべての申請者に共通)
- 起業プロジェクトに関する追加書類
- 帯同家族に関する書類
1. 一般書類(全申請者共通)
書類名 | 内容・注意点 |
---|---|
国家ビザ申請書 | スペイン大使館・領事館の公式フォーマットを使用し、署名が必要 |
証明写真 | 顔がはっきり写っているパスポートサイズのカラー写真(背景は明るく、眼鏡の反射などに注意) |
有効なパスポート | 発行から10年以内、有効期限が滞在予定+1年以上、空白ページ2ページ以上 |
無犯罪証明書 | 過去5年間に犯罪歴がないことを示す証明書+宣誓書(6ヶ月以内に発行) |
居住証明 | 領事館の管轄地域内に居住していることを示す公的書類(住民票など) |
健康保険加入証明書 | スペイン国内で有効な医療保険の契約書(公的・民間どちらでも可、全リスクをカバー) |
経済的資力証明 | IPREMの100%+家族1人あたり50%を満たす銀行残高証明・収入証明書など(2024年時点で本人€600/月) |
NIE番号(外国人識別番号) | 申請前に必ず取得。オンライン申請が可能(未取得だと申請不可) |
すべての書類は、スペイン語への公式翻訳と認証(アポスティーユまたは領事認証)が必要です。
2. 起業プロジェクトに関する追加書類
書類名 | 内容・注意点 |
---|---|
ENISAのレポート(肯定的評価) | スペインの国立イノベーション企業ENISAからの「肯定的評価レポート」。UGCE経由で取得。 |
ビジネスプラン | ビジネスモデル、革新性、経済的インパクト、雇用創出の可能性などを含む詳細な事業計画書 |
財務証明書 | ビジネス立ち上げ資金・運営資金を確保していることを示す書類(銀行残高証明、収入証明など) |
起業プロジェクトに関する書類は、ENISAの評価レポートが最重要です。ビジネスプランの完成度が審査の成否を分けます。
3. 帯同家族がいる場合の必要書類
帯同者の種類 | 必要な書類 |
---|---|
配偶者またはパートナー | 結婚証明書または事実婚を証明する公的書類 |
子ども(18歳未満) | 出生証明書(扶養関係が明記されていること) |
成人した子ども | 経済的に扶養されていること+未婚・同居の証明書 |
親・祖父母 | 同居・扶養を示す証明書類(公的なものが望ましい) |
帯同家族の申請には、家族ごとの収入要件(IPREMの50%/人)を追加で証明する必要があります。
提出前にチェックすべきポイント
- 書類は6ヶ月以内に発行された最新版であること
- スペイン語への公式翻訳+認証付きでない書類は原則受理されません
- NIE番号の取得は必須。オンライン申請で早めの準備を
- 書類が多岐にわたるため、チェックリスト形式で管理するのがおすすめです
スムーズな申請のために
スペインの起業家ビザは、ビジネスの実現性と本人の信用性が重視されるビザ制度です。
書類の不備や翻訳ミスは、審査の遅延や却下の原因にもなるため、ビザ専門家や行政書士のサポートを活用することも検討しましょう。
ビザの有効期間と更新
スペインの起業家ビザは、革新的なビジネスを立ち上げたい外国人に向けた長期的な滞在制度です。
初回の滞在許可から、更新・永住・市民権取得までの流れを以下にまとめました。
初回のビザ期間:1年間
起業家ビザを取得すると、まず1年間の居住許可が付与されます。
この期間中にスペインへ入国し、事業を立ち上げ、生活基盤を整えることが可能です。
フェーズ | 滞在期間 | 補足 |
---|---|---|
初回取得 | 最大1年間 | ビジネスの立ち上げ期間。スペインでの活動・生活を開始可能に |
ビザの更新:2年ごとの延長が可能
初回の1年が終了する前に、以下の条件を満たしていれば2年間の居住許可に更新できます。
この更新は繰り返し可能で、合計5年までの合法的滞在が認められます。
- ENISAからの評価を得た事業計画の継続実施
- 経済的自立(IPREM要件の継続)
- 健康保険の保持
- 滞在実績の維持(年間183日以上の居住が目安)
更新フェーズ | 追加期間 | 条件 |
---|---|---|
1回目の更新 | 2年間 | 事業の継続・収入証明などの条件維持 |
2回目の更新 | さらに2年間 | 同上。合計で5年の滞在が可能に |
永住権への道が開かれている
スペインにおいて5年間連続して合法的に居住している場合、**長期居住許可(永住権)**の申請資格を得ることができます。
申請には以下の条件が必要です:
- 事業の継続と収入の安定
- 犯罪歴がないこと
- 居住実態(原則年間183日以上の滞在)
さらに条件を満たせば、将来的にスペイン国籍の取得(市民権)も視野に入れることが可能です。
まとめ:ビジネスとともに長期移住を実現できる制度
起業家ビザは、単なる短期滞在ではなく、
1年→2年+2年→永住→市民権というステップで、スペインに根を張るチャンスを提供する制度です。
ステージ | 内容 |
---|---|
初回 | 最大1年の居住許可 |
更新 | 2年+2年で最長5年まで滞在可 |
永住 | 5年経過後、長期居住許可の申請が可能 |
市民権 | 条件を満たせばスペイン国籍も取得可能 |
申請手順
スペインの起業家ビザを取得するには、事前の事業準備から公的評価、申請書類の提出、審査・受け取りまで複数のステップを踏む必要があります。
以下では、主な流れと注意点を詳しく解説します。
事前準備(要件と書類を整える)
以下の条件を満たしているか、事前にチェックしましょう。
- 革新的な事業計画を保有していること
- ENISA(スペイン起業支援公社)からの評価報告書(レポルテ・ファボラブル)を取得すること
- 健康保険に加入していること
- 無犯罪証明書(過去5年)を提出できること
- 十分な生活資金を保有していること(IPREMの100%以上)
NIE番号(外国人識別番号)の取得
ビザ申請の前にNIE番号の取得が必須です。
申請はオンラインまたは領事館で行えます。
書類の準備
必要書類をすべて揃えます。
- 原本+スペイン語への公式翻訳
- アポスティーユまたは領事認証が必要な文書に注意
- 書類の有効期限は基本的に6ヶ月以内
ENISA評価の取得(起業家ビザ特有のステップ)
起業家ビザでは、スペイン経済・起業支援機関であるENISA(Empresa Nacional de Innovación)から「肯定的評価(レポルテ・ファボラブル)」を受ける必要があります。
手続きの流れ
- ENISAに事業計画書・経営者のプロフィール・収支予測などを提出
- 内容に応じて、審査担当者とのヒアリングや質問が行われることも
- 書面で評価結果が通知される(肯定的評価を取得できなければビザ申請不可)
ビザ申請の予約と書類提出
申請予約を取得
在住国のスペイン大使館・領事館またはBLS申請センターにて、面接予約を取得します。
申請当日:書類提出・申請料の支払い
- 原則として本人が出頭し、必要書類一式を提出
- 提出時にビザ申請料(国籍により€80〜€167)を支払い
- 受付票に記載された追跡コードで申請状況の確認が可能
※どうしても本人が出頭できない場合は、委任状と代理人の身分証があれば代理申請も可能です。
審査と結果通知
標準的な審査期間:10営業日以内
スペイン大使館・領事館にて審査が行われます。
必要に応じて、追加書類の提出や面接が要求されることもあります。
結果通知
- 通常10営業日以内に通知
- 内容確認や書類不備があれば、審査が延長されることも
- 不許可の場合は書面で理由通知あり。通知から1ヶ月以内に異議申立て(再審査請求)も可能
ビザの受け取りとスペイン入国
許可後の受け取り
ビザの発行通知を受けたら、1ヶ月以内にビザを受け取る必要があります。
受け取り方法(郵送または来館)は申請時に選択します。
スペインへの入国
ビザ取得後は、スペインに入国し、事業開始および居住登録を進めます。
TIE(居住許可カード)の申請
スペイン入国後、1ヶ月以内に最寄りの外国人事務所(Oficina de Extranjería)または警察署にて、**TIE(外国人居住カード)**の申請を行います。
- TIEは居住の証明となるカード(取得は義務ではないが推奨)
- 指紋登録・顔写真提出などが必要
- 有効期間:初回は1年間、更新後は2年ごと
補足ポイント
- ENISA評価の取得には時間がかかるため、早めの準備が重要です。
- 家族を同時に申請する場合は、帯同者分の書類や追加の収入証明も忘れずに。
- スペインでの居住を開始した後も、税務や社会保障の届出が必要になるため、現地の専門家との連携がおすすめです。
費用の目安
スペインの起業家ビザを検討する際、事業とは別に発生する申請関連費用をあらかじめ把握しておくことは重要です。
ここでは、申請料の目安から追加費用までをわかりやすく解説します。
ビザ申請料:国籍によって異なる
起業家ビザ申請時には、国籍に応じたビザ申請料が必要です。
正確な金額は、スペイン大使館または領事館の公式サイトで必ずご確認ください。
国籍 | ビザ申請料(目安) |
---|---|
日本 | 約 €80 |
アメリカ | €167 |
カナダ | €100 |
その他の国 | €80〜€120程度 |
※申請時に現金または指定の方法で納付する必要があります。
追加で発生する可能性のある費用
申請料以外にも、以下のような費用が発生する可能性があります。
項目 | 費用の目安 | 内容・注意点 |
---|---|---|
書類の翻訳・認証 | €100〜€300 | 公式翻訳者によるスペイン語訳+アポスティーユまたは公証が必要 |
健康保険加入費 | €300〜€1,000/年 | スペイン国内で有効な包括的保険が条件(医療全般をカバー) |
無犯罪証明書の取得費 | €10〜€50 | 発行から6ヶ月以内、出身国または居住国で取得 |
NIE番号の取得費 | €9.84(公式手数料) | スペインの外国人識別番号。申請時に必要 |
ENISA評価用翻訳・資料準備 | €200〜€500 | 事業計画書・補足資料の翻訳・整備が必要な場合 |
これらはあくまでビザ申請関連の「事務コスト」であり、事業投資とは別予算として考えるべきです。
合計費用の目安(個人1名で申請する場合)
項目 | 費用(目安) |
---|---|
ビザ申請料 | €80〜€120 |
書類翻訳・認証 | €150〜€300 |
健康保険 | €400〜€1,000/年 |
その他(NIE・証明書等) | €50〜€100 |
合計 | 約 €680〜€1,520 |
家族を帯同する場合のコスト加算
帯同者1人につき:
- 健康保険加入費:€300〜€800(年齢・プランによる)
- 翻訳・認証費:€50〜€200(証明書類ごとに)
- 収入証明基準:IPREMの50% × 人数分を追加証明する必要あり
申請前にコストを見積もっておこう
- 翻訳や認証の価格は、国や書類の種類によって変動します。
- 健康保険費用も年齢・健康状態・補償範囲によって異なります。
- ENISA評価に向けた資料作成支援費用も外部業者に依頼する場合は考慮が必要です。
無駄な出費や再申請を避けるために
- 専門家(ビザコンサルタント・翻訳者など)と連携することで、書類不備や認証漏れを防げます。
- 初期の失敗で再申請になると数百ユーロ単位の追加費用+時間のロスが発生します。
補足:知っておくべきポイント
- TIEカードは取得任意だが、取得しておくと便利(IDとして利用可)
- 書類はすべて6ヶ月以内発行+翻訳・合法化が必要
- ビザ申請が却下された場合は、1ヶ月以内に再審査請求またはマドリード高等裁判所へ不服申し立て可能
- スペインでの事業運営は、納税義務が発生するため税理士相談を推奨
まとめ
スペインの起業家ビザは、革新的なビジネスアイデアと明確なビジョンを持つ方にとって、ヨーロッパでの活躍の第一歩となる制度です。申請には準備が必要ですが、正しいプロセスを踏めば、スペインでの長期的なビジネス・生活を実現することが可能です。専門家のサポートを活用しながら、確実にステップを進めていきましょう。
※ 本記事の内容は2025年3月時点の情報です。制度変更の可能性があるため、最新情報はスペイン大使館・領事館の公式発表をご確認ください。

