スペインの税制|居住者税・非居住者税・二重課税・確定申告の基本– スペイン移住・滞在者必見。居住者と非居住者で大きく異なる税制の違いを丁寧に解説。モデル210の申告や二重課税の回避方法まで、実務に役立つ知識を網羅 –

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はじめに|居住者・非居住者で変わるスペインの課税ルール

スペインでは、あなたが「居住者」か「非居住者」かによって、課税の対象・範囲・税率が大きく異なります。

移住や長期滞在を考えている方にとって、最初に理解しておくべきなのがこの区分です。特に「183日ルール」や日本との二重課税防止条約モデル210と呼ばれる非居住者申告など、注意すべき点がいくつも存在します。

この記事では、非居住者の税制を中心に、居住判定、確定申告の義務、二重課税回避のポイントまでわかりやすく解説します。

スペイン税制の基本|「居住者」と「非居住者」の違い

スペインの個人所得税(IRPF:Impuesto sobre la Renta de las Personas Físicas)は、納税者が「居住者(Residente fiscal)」か「非居住者(No residente)」かによって、課税される所得の範囲・税率・申告義務がまったく異なります

この判定は、移住・滞在の目的を問わず、税務上の扱いに直結するため非常に重要です。

居住者(Residente fiscal)

以下のいずれかに該当すると、その年のスペインの税務上の居住者として扱われます。

  • 1年間のうち183日以上スペインに滞在している(出入国管理記録や公共サービスの利用履歴から確認されることも)
  • 経済的な利益の中心(主たる住居・勤務先・ビジネス・主要な収入源)がスペインにあるとみなされる場合
  •  配偶者や未成年の扶養家族がスペインに居住しており、それにより「生活の基盤」がスペインにあると見なされるケース

ポイント

  • 滞在日数が183日未満でも「居住者」と判断されることがあるため、実態に基づいた判断がなされます。
  • 一度「居住者」と判定されると、その年の1月1日から12月31日までの全世界所得がスペインで課税対象になります。
  • 日本の所得(給与、事業、配当など)も申告対象となりますが、二重課税防止条約により相殺(税額控除)可能です。

非居住者(No residente)

一方、上記いずれにも該当しない人は、スペインの非居住者(No residente fiscal)として扱われます。非居住者に対する課税は、スペイン国内に源泉のある所得のみに限定され、全世界所得は対象外となります。

例えば、以下のようなケースが該当します。

  • スペイン国内に別荘や投資物件を所有しているが、日本在住でスペイン滞在は短期
  • スペイン企業と契約しているが、リモートで日本から仕事をしている
  • スペインの銀行に預金があり、利子収入を得ている

課税対象となる主な所得(非居住者の場合)

  • 不動産収入(例:Airbnbで貸し出した収入)
  •  給与・報酬(スペインで勤務した場合)
  •  銀行預金の利子、スペイン企業からの配当など

申告方法(Modelo 210)

非居住者は、Modelo 210(モデル210)と呼ばれる申告書を用いて、対象となる所得に応じた税金をスペインに納める必要があります。
不動産を所有している場合、たとえ賃貸していなくても「みなし賃料」に対して課税されるため要注意です。

税率(2025年時点の一例)

  • EU居住者:19%
  • 非EU居住者:24%

(例:日本在住者 → 24%)

補足:居住者/非居住者の判定は毎年リセットされる

スペインでは、この「居住者 or 非居住者」の判定は毎年独立して判定されるため、前年の扱いが翌年に自動的に引き継がれるわけではありません。

たとえば、2024年に183日以上滞在して居住者扱いだったとしても、2025年に短期滞在のみであれば非居住者として扱われます。

判定を間違えるとどうなる?

  • 非居住者なのに申告を怠ると → 後に不動産売却時やビザ更新時にトラブルになることも
  • 実質的に居住者なのに非居住者として申告すると → 脱税と見なされ、追徴課税+延滞金のリスク
  • そのため、移住の初年度から明確に判定と記録を残しておくことが非常に重要です。

まとめ

居住者、非居住者ごとに申請書類は異なります。それぞれに合った対応をしましょう。

区分確定申告の種類使用する申告書主な対象所得
居住者Declaración de la Renta通常の所得税申告全世界所得(スペイン内外すべての収入)
非居住者Modelo 210特別様式210スペイン国内源泉の所得のみ(例:不動産収入)

日本との二重課税防止条約|同じ収入に税金を二重に払わないために

スペインと日本は、「日西租税条約(正式名称:所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税防止のための日本国とスペイン王国との間の条約)」を締結しています。

これにより、同じ収入に対して両国で課税される「二重課税」を防ぐ仕組みが整備されています。

二重課税が起きやすいケースとは?

以下のようなケースでは、何もしないと同じ収入に日本とスペインで税金がかかるリスクがあります。

  • 日本で給与や配当を得て、日本側で源泉徴収されている
  • 税務上はスペインの居住者と判定された
  • 全世界所得をスペインで申告する必要が出てくる

二重課税防止条約の基本的な仕組み

スペイン居住者が日本の所得を得ている場合

  • スペインで確定申告が必要(全世界所得)
  • 日本で支払った源泉所得税は、スペインで「外国税額控除」として差し引ける

必要書類(スペイン申告時)

  • 日本の源泉徴収票
  • 日本の納税証明書
  • 所得の発生を証明する明細書(給与、配当、銀行証明など)

控除の上限は、スペインで同じ所得にかかる税額まで

日本居住者がスペインで課税された場合

  • 日本の確定申告で「外国税額控除」が可能
  • スペインの納税証明書(レシート・モデル210など)を用意
  • 例:スペインの不動産収入に課税 → 日本で控除申請

二重課税防止条約の原則(早見表)

所得の発生地居住地課税の扱い
日本スペインスペインで申告。日本で源泉徴収→スペインで控除可
スペイン日本日本で申告。スペインで課税→日本で控除可

専門家の活用がおすすめなケース

以下のような方は、税理士やGestoría(スペインの会計士)への依頼を検討しましょう。

  • 日本とスペインの両方に収入がある
  • 不動産、配当、給与など複数の所得源がある
  • スペイン語や税務手続きに不安がある
  • 正確な書類準備が難しいという人

間違った申告で控除が受けられないリスクや過払いを防ぐためにも、初年度は特にプロのサポートが安心です。

まとめ|二重課税を防ぐには「知識+証明書」がカギ

  • 日西租税条約により、基本的に「同じ所得に2重で課税されることはない」
  • ただし、控除を受けるには確実な書類提出が必要
  • 条約の内容と申告ルールを理解したうえで、早めの準備を

よくある疑問と注意点

「183日ルール」って何?滞在日数で税制が変わるって本当?

はい、本当です。スペインでは暦年単位(1月~12月)で183日以上滞在すると、税務上の居住者と見なされ、全世界所得に課税される可能性があります。

ただし、数日単位の出入りがあっても、家族がいる、主な生活拠点がスペインにある場合は居住者とされることもあるため要注意です。

海外所得に対してスペインで課税される?

居住者であれば課税対象になります。

• 日本での給与、投資収益、副業収入なども原則としてスペインの所得税申告に含まれます。

• ただし、日本で既に源泉徴収されている場合は、「二重課税防止条約」を活用してスペインで税控除が受けられます。

フリーランスやリモート収入もスペインで申告すべき?

原則、居住者であれば全てスペインで申告が必要です。

たとえ収入が日本の企業から振り込まれていたとしても、あなたの税務上の居住地がスペインであれば、スペインで課税されるのが基本となります。

• 自営業(Autónomo)登録が必要なケースもあり

• 四半期ごとのVAT(付加価値税)申告なども発生する可能性あり

非居住者でも家を持ってたら固定資産税がかかる?

はい、かかります。非居住者でもスペインに不動産を所有している場合:

• 固定資産税(IBI):地方自治体に毎年支払い

• 非居住者所得税(モデル210):年間で申告義務あり(不動産収入がなくても)

物件を貸し出している場合は、家賃収入に対する非居住者税(通常19〜24%)が課税されます。

まとめ

区分税務上の扱い申告義務
居住者全世界所得に課税確定申告(renta)
非居住者スペイン国内源泉所得のみモデル210で申告

スペインで長期滞在を始める際は、まず自身がどちらに該当するのかを正確に把握することが何よりも大切です。

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