スペインへの移住を考える上で、「仕事をどうするか」は最も大きなポイントのひとつです。
このガイドでは、スペインで働くための基本条件から、主な職種、求人の探し方、フリーランスとして働く方法、生活費、準備までを網羅的に解説します。
スペインで働くための基本条件
スペインでの就労には、ビザの種類や労働許可の有無といった法的な条件を正しく理解することが欠かせません。ここでは、スペインで働くうえで押さえておくべき基本的な制度やルールを簡潔に整理します。
渡航後にトラブルを避けるためにも、就労に関わる前提条件を事前に確認しておくことが重要です。
ビザの種類と就労可否
スペインで合法的に働くためには、就労可能なビザが必要です。
ビザの種類 | 主な対象者 | 就労可否 | コメント |
---|---|---|---|
就労ビザ(ワークビザ) | 現地企業に雇用される人 | 可 | スペイン企業がスポンサーとなり申請。事前の雇用契約が必要 |
高度技能者ビザ(Blue Card) | 高度人材(学歴・職歴あり) | 可 | EU全域で使える。給与・職種などに基準あり |
学生ビザ | スペインの大学・語学学校などに通う学生 | 原則不可(※制限付きのアルバイト可) | 最大20時間/週までの就労が認められる場合あり |
デジタルノマドビザ | 海外企業に雇用されているリモートワーカー | 可(※条件あり) | 2023年導入。スペイン国外の収入源が主な条件 |
自営業・フリーランスビザ(Autónomo) | 自営業として働く予定の人 | 可 | 収入計画やスペイン語の契約関連書類が必要 |
非営利ビザ(Non-Lucrative Visa) | 働かずに長期滞在したい人 | 就労不可 | 収入証明が必要。副業・リモートワークも基本NG(グレーゾーンあり) |
起業家ビザ(Entrepreneur Visa) | スペインで革新的ビジネスを始める人 | 可 | ビジネスプランの審査あり。実行力が求められる |
ワーキングホリデービザ | 18〜30歳の一部の国籍保有者(日本含む) | 可(※制限あり) | 1年間限定。収入目的の長期就労には向かない |
ビザによって申請要件が異なるため、詳細は別記事で解説しています。
労働許可の必要性
スペインで現地企業に雇用されて働く場合、ビザとは別に「労働許可(autorización de trabajo)」の取得が必要となるケースがあります。
この労働許可は本人が直接取得するのではなく、雇用主(企業側)がスペイン政府に申請し、承認を得る必要があります。
申請には「ポジションがスペイン人やEU市民でまかなえない理由」の証明が必要など、ハードルもあり、取得には数ヶ月かかることもあります。
なお、フリーランスビザ(Autónomo)やデジタルノマドビザのように、就労許可が不要なビザもあります。働き方に応じて必要な手続きが変わるため、事前に確認が必要です。
スペイン語のスキルは必要?
スペインで働く上で、スペイン語のスキルは基本的に「あるに越したことはない」というのが現実です。特に現地企業への就職や接客業・サービス業など、顧客対応を含む職種では日常会話レベル以上のスペイン語が求められるケースが多くなります。
一方で、語学力が不安な人でも働ける職場もあります。たとえば、以下のようなケースではスペイン語力が必須ではないこともあります。
- 日本食レストランや日系企業など、日本語を使用する職場
- 観光業・ホテル業界の一部で、英語+基本的なスペイン語で対応可能な環境
- IT・エンジニア系の職種で、英語が共通語となっている国際的な企業
また、スペインでは英語が通じる職場は一部に限られるため、就職の選択肢を広げたいなら、やはりスペイン語学習は移住前から少しずつ始めておくのがおすすめです。
スペインで見つかりやすい仕事の種類
スペインにおける就労機会は、職種や求められる語学力によって大きく異なります。
ここでは、現地採用で比較的就業しやすいとされる分野や、日本人の間で選ばれることが多い職種について整理しています。
雇用環境や言語要件を踏まえたうえで、働き方の選択肢を把握するための参考情報としてご活用ください。
現地採用で多い職種
スペインで現地採用されやすい職種には、人手不足の傾向がある以下のような業界が含まれます。
- 飲食・カフェスタッフ
特にバルセロナやマドリードなどの都市部では、日本食レストランや多国籍な飲食店での求人も多め。カスタマー対応が中心になるため、スペイン語は日常会話レベル以上が求められるケースが一般的です。 - 観光・ホテル業界
観光立国であるスペインでは、季節ごとの人材需要も高め。ホテルのフロントスタッフ、観光案内所、ガイドなどの求人があり、英語・スペイン語の両方が活かせる環境が多いのも特徴です。 - コールセンター・カスタマーサポート
外資系企業のカスタマーサポート職では、日本語スピーカーを探していることもあり、スペイン語のレベルがそこまで高くなくても採用される場合もあります。
日本人に人気の職種
語学に不安がある人や、日本的な文化・スキルを活かしたい人には、以下のような職種が人気です。
- 日本語教師・家庭教師
日本語学習者向けの学校や個人レッスンが中心。資格がなくても働けることがありますが、日本語教師養成講座やオンライン指導経験があると有利です。 - 日系企業のスタッフ
スペインに進出している日系企業での営業・事務・現地サポートなど。日本語+英語またはスペイン語が求められることも多いですが、文化理解が強みになります。 - 通訳・ガイド・翻訳
観光やビジネス現場での通訳、オンラインでの翻訳業務など、日本語を軸にした仕事は根強く存在します。フリーランス契約になることも多いです。
これらの職種は求人の数自体は多くないものの、タイミングや人脈が合えば就職できる可能性も十分にあります。
スペインでの仕事の探し方
スペインで働くためには、どのように求人情報を見つけるかが重要なポイントとなります。
言語力や滞在状況、希望する職種によって、適した探し方は異なりますが、主に活用されている手段は大きく3つに分類されます。
求人サイトの活用
スペイン国内では、オンライン求人サイトが広く利用されています。職種や地域、言語条件などを絞って検索できるため、渡航前でも情報収集が可能です。ただし、スペイン語での掲載が中心となるため、基本的な読解力は求められます。
転職エージェントの利用
海外就職に対応した日系・外資系の転職エージェントを通じて求人を紹介してもらう方法です。履歴書の添削や面接準備などのサポートが受けられる反面、対象となる求人は限られる場合があります。
ネットワークや紹介経由での就職
現地在住の知人や日本人コミュニティを通じて求人情報を得るケースも少なくありません。特に日系企業や小規模ビジネスでは、非公開求人が人づてで出回ることもあるため、積極的な交流がチャンスにつながることもあります。
各手段の特徴や活用方法について詳しくは、スペインで仕事を探すには?方法と実例まとめをご覧ください。
フリーランス・リモートで働く場合
デジタルノマドビザについて
2023年に正式スタートしたスペインのデジタルノマドビザでは、EU外からのリモートワーカーがスペインで最長5年間滞在可能に。
収入要件や企業との契約証明が必要です。
フリーランス登録(Autónomo)の流れ
スペインで自営業として働くには、Autónomo(個人事業主)登録が必要です。手続きには税務署(Agencia Tributaria)と社会保障局への届出が含まれます。
リモートワークの実例と注意点
日本の企業と契約してスペインから働く人も増加中。時差や通信環境、税務申告には注意が必要です。
給与・物価・生活費のリアル
スペインの平均給与と最低賃金
スペインの月額最低賃金は約1,134ユーロ(2024年時点)。
平均給与は職種によって異なりますが、おおよそ1,600〜2,000ユーロです。
都市別の生活コスト
スペイン国内でも、都市によって生活費には大きな差があります。バルセロナやマドリードなどの大都市では、家賃や外食費が高めに設定されている一方、バレンシアやセビリアなど中規模都市では、比較的リーズナブルな生活が可能です。生活拠点によって支出構造は変化するため、移住先選びの際には都市ごとの物価を把握しておくことが重要です。
現地で働くメリット・デメリット
スペインでの就労には、日本とは異なる制度や文化が数多く存在します。ここでは、スペイン現地で働くことの主なメリットとデメリットを整理し、移住後の働き方をイメージするための参考としていただければと思います。
メリット
- ワークライフバランスが良い
スペインでは、長時間労働よりも効率的な働き方が重視されており、一般的に残業は少なめです。労働時間が法的に厳しく管理されている職場も多く、勤務時間外の対応を求められるケースは日本に比べて少ない傾向にあります。多くの企業では、終業後の時間や週末はプライベートを重視する文化が浸透しています。 - 医療や社会保障制度が充実している
スペインはEU加盟国の中でも公的医療制度が整っている国のひとつで、就労ビザ保持者や自営業登録者(Autónomo)であれば、社会保障制度への加入が義務付けられており、医療費の自己負担が大幅に抑えられます。また、育児休暇・傷病手当・失業給付など、生活を支える各種制度も整っています。 - バカンス文化が根付いている
スペインでは有給休暇の取得率が高く、夏季休暇(バカンス)を1〜2週間まとめて取得することが一般的です。年間の有給日数は法定で30営業日以上(週5日勤務の場合)とされており、仕事以外の時間も大切にする文化が根付いています。この点は、特に日本の長時間労働環境に慣れた人にとっては、大きな魅力となるでしょう。
デメリット
- 手続きが煩雑かつ時間がかかる
就労許可の取得、ビザの申請、社会保険への登録、税務関連の手続きなど、制度面では書類作成や役所での手続きが非常に煩雑です。申請後に数週間〜数ヶ月かかることもあり、事前に十分な準備とスケジュール調整が求められます。また、オンライン手続きが不完全な分野もあるため、対面での申請・書類提出が必要なケースも多くあります。 - 雇用契約や労働慣行が日本と異なる
スペインでは、労働契約書が雇用関係のすべての根拠となるため、その内容を正確に理解しておく必要があります。また、「定職(indefinido)」と「有期契約(temporal)」など、契約形態ごとに待遇や保護制度が異なり、正社員登用の考え方も日本と異なる点が多々あります。契約更新や終了に関するルールも明文化されており、誤解がトラブルに発展しやすいため注意が必要です。 - スペイン語のハードルがある
ビジネス現場においては、スペイン語が主なコミュニケーション言語となるため、言語面の準備が不十分なまま渡航すると、手続きや職場での業務に支障をきたす恐れがあります。特に、ローカル企業や行政とのやり取りでは、スペイン語が必須となる場面が多く見られます。語学力の向上は中長期的なキャリア形成にも大きく影響するため、継続的な学習が求められます。
このように、スペインでの就労には多くのメリットがある一方で、制度や文化の違いを理解し、計画的に対応することが重要です。メリットだけでなく、「何が自分にとっての課題か」を把握した上で準備を進めることで、より充実した働き方を実現しやすくなります。
スペインで働くために今からできる準備
スペインでの就労を目指す場合、渡航前からできる準備は多岐にわたります。語学力の向上や職務経歴の整理はもちろんのこと、国際送金やオンライン面接に備えたツールの整備など、事前に対応しておくことで、現地での活動が格段にスムーズになります。以下では、出発前に取り組んでおきたい代表的な準備項目を簡単に紹介します。
- スペイン語の基礎習得やオンライン語学レッスンの活用
- 海外転職に対応したエージェントや求人サイトへの登録
- 国際送金・海外口座(Wise・Revolut等)の事前開設
- 英語・スペイン語でのオンライン面接対策
- 履歴書やLinkedInプロフィールの見直し・英語化
これらの準備を段階的に進めておくことで、現地での生活・就職活動のハードルを大きく下げることができます。
体験談・ブログ
実際にスペインで働いている方や、移住後に就職活動を経験した方々の体験談は、制度や統計データだけでは見えてこないリアルな状況や心構えを知るうえで貴重な情報源となります。
まとめ
スペインでの仕事探しは、ビザの条件や言語スキルなどのハードルはあるものの、準備をすれば道は開けます。
現地採用・フリーランス・リモートなど、自分に合った働き方を見つけるために、早めの情報収集と行動がカギです。
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